さだまさし『第三者』 別れる寸前の二人の描写 比喩表現がすごい!

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 こんにちは、じぷたです。

 今回のさだまさし研究は、『第三者』をテーマに考察していきます。
 『第三者』は1981年6月に発表されたアルバム『うつろひ』に収録されました。

 

さだまさし『つゆのあとさき』についての考察 歌詩の才能が非凡すぎる  
彼女は別れを切り出た「僕(彼氏)」に対して「幸せでした」「ありがとう」「忘れない」と伝えました。彼女は「僕」との親しい付き合いに対して、満足していたことを伝えています。その後、自分が至らなかったことについて「ごめんなさい」と告げています。

 

さだまさし『空蝉(うつせみ)』についての考察
老夫婦は駅にやって来ては息子を待つ、という生活を続けています。この日も、おむすびをもってきていることから終日待ち続けるつもりなのでしょう。夕暮れまで待ち続けたものの結局息子が駅に降り立つことはありませんでした。

 

「さだまさし」の正しい理解のために ~さだまさしのちから~
「さだまさし」への世間の評価が作品の質の高さのわりに評価されていない、ってことです。ファンとしては、もう少し世間的に正しく理解され、音楽としての良さを楽しんでいただきたいと思い、この記事を書くことにしました。さだまさしには黄金期と呼ばれる時期があります。

 

さだまさし『案山子』についての考察 「松の木の精」&さだまさしのコラボ説
『案山子』には兄弟の物語が描かれています。それに併せて、故郷から都会へ出た「若者」に対するさだまさしの思いが、「松の木の精」の視点を通して語られています。「兄弟説」に「松の木の精」の視点が付け加えられている、というのが私の解釈です。

 

さだまさし『主人公』についての考察 若者たちに向けた熱くストレートなメッセージ 
しらけ世代といわれた当時の若者たちも、過去の若者たち(さらに言うと今の若者たち)と同様に、若さゆえの苦しみや迷いを抱えているわけです。若者に対して、熱くストレートな言葉でメッセージを送るというのが『主人公』のテーマだと思います。

 

『第三者』切れ味バツグンの描写力

 

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ファンからの評価が高い曲ではない

 さて、この『第三者』。さだまさしの曲の中では、正直なところ評価は高くありません。さだまさしの名曲ランキングは様々ありますが、どれをとっても基本的にランク外です。
 曲の情報をネットで検索しても『検察側の証人』のアンサーソングであることしか上がってきません。

 そもそも『うつろひ』というアルバム自体の評価も高くないようです。
 一説によると、80年代初頭に発生した根拠不明の「さだまさしバッシング」の渦中に作成されており、本人の気分的にも創作活動的にも不調の時期だったとか。

 じぷた的にもアルバム『うつろひ』についてはあまり高い評価はしていません。
 聴きこんでいけば味のある曲が多く収録されていることがわかるのですが、ちょっと聴いただけだとメロディの音使いがダサいと感じてしまう瞬間があります。

 『風見鶏』、『私花集』(アンソロジー)、『夢供養』といった伝説的アルバムに日常的に触れることができた世代としては、『うつろひ』のイケてなさを少々残念に思ったこともありました。

 しかしながら、その中にあっても「さだらしさ」を感じることのできる、切れのある曲として『第三者』は面白いと思っています。

 編曲は服部克久氏。
 一つ前に発売されたアルバム『印象派』は、若干地味ながらも実験的な内容も含む意欲的な作品でした。その編曲を手掛けていらっしゃったのが服部克久氏です。

 服部克久氏と言えば『自由の大地』が有名ですよね。じぷたも好きな曲です。
 はっきり言ってビックネームなのですが、さだまさしと縁があると聞くとなんだか親近感が湧いてきます。 
 2020年に他界されましたが、残念でなりません。

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まずは歌詞を読んでみる

   まずは歌詞から読んでみましょう。
 以下、歌詞引用です。また、以降の青字は引用部分です。

『第三者』  作詩・作曲 さだまさし  アルバム『うつろい』に収録

①死んだ珈琲 挾んだままで
②外の信号の変わる数を テーブルに映る 黄色で数えて
③ついでに想い出も数えて

④忘れかけてた 君の癖が こんな時にふと目についたりして
⑤懐かしいものと 出会った気がして 笑ったら君は怪訝な顔をする

⑥もう 明日は第三者 信じるものさえも 違う異教徒になる
⑦一度は 同じものを信じた 二人が奇妙にも 見知らぬ人になる日

⑧車のライトが 時折横切る
⑨前髪の奥の君の瞳には 既に僕の 姿は消えて 
⑩蝋燭の赤だけが揺れてる

⑪隣の席の 笑い声が 幾分僕等に気兼ねをして 
⑫やがてこの店の 最終注文(ラストオーダー)を 尋ねる時間が訪れる

⑬最后の 御注文はいかが お二人に似合いの デザートはいかがですか
⑭表は 季節の替り目の 雨が降り始めて 音楽がやがて止まる

⑮もう 明日は第三者 最后の注文は何かありませんか
⑯もう 明日は第三者 最后の注文は

 

いかにもアコーディオンな前奏 クラシカルなオシャレ

 アコーディオンの音色を十分に生かしたというか、いかにもアコーディオンなメロディのイントロから始まります。
 ライブではピアニカで代用されていることもあるようです。
 余談ですが、じぷた長男はこのイントロを聴いて、「なんか喫茶店的じゃね」と言っていました。

 何を以って喫茶店的と感じたのかわかりませんが、アコーディオンの音色がクラシックな映画に出てくるカフェを想起させたのかもしれませんね。

 

情景描写と心情描写を重ねている!

 ①死んだコーヒー 挟んだままで

 「挟んだままで」とあることから登場人物は2人です。
 2人の間に置かれた「死んだコーヒー」は当然比喩なわけですが、冷めきっていて、カップまで冷めている、ところでしょうか。
 当然、二人の気持ちも冷めていることを示しています。暗喩ではありますが、ぼぼ直喩。

 長時間にカップに渡り口をつけらることもなく、2人の間に会話もないことからコーヒーの表面が微動だりしないところまで想起させる、非常に力のある比喩です。

 

 ②外の信号の変わる数を テーブルに映る 黄色で数えて
 ③ついでに想い出も数えて

 信号の変わる数…どうでもいいですよね。そして、どうでもいい事の、さらに「ついでに」男は二人の思い出をたどっています。
 思い出に対する「どうでもいい度」が急上昇です。

 それまでは何を差し置いても重要だったはずの「二人の思い出」は、既にどうでもいい存在に変化してしまっていることを示しています。

 後で書きますが「黄色で数えて」の部分も重要な伏線だと思われます。

 

 ④忘れかけてた 君の癖が こんな時にふと目についたりして
 ⑤懐かしいものと 出会った気がして 笑ったら君は怪訝な顔をする

 ④忘れかけてた君の癖が、とあります。
 この場合、本当に長い間会っていなかったという可能性もありますが、⑤懐かしいもの…のくだりから考えると、男にとって彼女が遠い存在になっていたという意味かと思われます。 
 毎日気になっていた彼女の癖を忘れかけるほど、冷めた関係になっていたことが伺えます。

 

 ⑥もう 明日は第三者 信じるものさえも 違う異教徒になる
 ⑦一度は 同じものを信じた 二人が奇妙にも 見知らぬ人になる日

 二人が信じていた「同じもの」とは「二人の愛」といったところでしょうか。

黄色は赤に向かう心の揺れ動き、赤は拒絶、では青は?

 ⑧車のライトが 時折横切る 
 ⑨前髪の奥の君の瞳には 既に僕の 姿は消えて 
 ⑩蝋燭の赤だけが揺れてる

 一読しただけだと彼女の心には僕の姿はないことを表現しているように思われます。
 しかし、ここではもう一歩踏み込んで考えてみたいところです。

 一番の歌詞「②外の信号の変わる数を テーブルに映る 黄色で数えて」の部分から考えられるのは、「僕」の心情的には「黄色信号」の状態であることを示しているのではないでしょうか。

 つまりこの段階においても僕の心は黄色信号であり、心にはゆり動ける余地がありそうですが、結局は赤信号に向かうしかない状態です。
 しかし彼女の目に映るのは赤(信号)。彼女的には僕に対する拒否はすでに決定的となっていることを暗示しています。

 

 ⑫やがてこの店の 最終注文(ラストオーダー)を 尋ねる時間が訪れる
 ⑬最后の 御注文はいかが お二人に似合いの デザートはいかがですか

 デザートとは一般的に言って、メインディッシュの後に食べるものです。また食事を終えるにあたり食後の満足感を増幅させる効果を狙ったものだとされます。

 この男女について言えば、二人の付き合いを終えるにあたり、お別れ後の満足感を増幅させる発言や行動をデザートに例えているのではないでしょうか。
 楽しかった思い出を振り返ったり、付き合い始めたころの心情を伝えたりするのが具体例です。

 そして時間的にも最終盤、これ以上引っ張るのは無理な状況に陥りました。

 

 ⑭表は 季節の替り目の 雨が降り始めて 音楽がやがて止まる

 ここでも状況描写と心情描写が重なり合います。
 心の中でも「雨」となり、音楽が止まって「無」の状態になりました。

 

 そして最後のフレーズ。
 ⑮もう 明日は第三者 最后の注文は何かありませんか
 ⑯もう 明日は第三者 最后の注文は
 

 まず考えるべきは「⑯もう 明日は第三者 最后の注文は」の部分です。

 途中で途切れているところがポイントです。
 つまり、最後の注文は「オーダーされなかった」ということを暗示してます。楽しかった思い出を振り返ること等により、二人の付き合いを楽しかったものとして美化することを二人とも望まなかったということではないでしょうか。

 悲しいですが、仕方ないことなのかもしれません。
 そんな愛の結末もあるでしょう。

注文するべき実際のラストオーダー

 さて、本題とは関係の無いネタで最期を飾ろうと思います。

 ⑬最后の 御注文はいかが お二人に似合いの デザートはいかがですか

 この歌における、ラストオーダーは「思い出美化」に向けた、しゃれた言葉掛けや振り返りのことを指していると述べました。
 この歌の舞台は喫茶店だと考えられますが、この場面で実際に注文するべきはどんなデザートなのでしょうか。

 信号の黄色がテーブルに映るくらいなので周囲は暗くなっているはずです。喫茶店のラストオーダーの時間は一般的にいって18時半頃でしょうか。
 その時間に暗くなっているということは、季節の変わりの目は秋から冬の頃でしょう。季節感を出すのであれば、あまり冷たさを前面にだしたものではなさそうです。

 若い二人にお似合いなわけですから、少なくとも饅頭や最中といった和菓子ではなさそうです。
 いや、饅頭がいけないというわけではなくてですね、イメージの問題というか。じぷたは最中も好きですけどね。

 場所は喫茶店、すでにコーヒーを注文し、客は若い二人という点から考えれば王道はフルーツ等をあしらったショートケーキですが、あえてここはアイストッピングのワッフルなどいかがでしょう。

 今回は鮮やかな青系アイスに緑のハーブをあしらってみました。

青と緑をあしらったオシャレデザートということでワッフルなんてどうでしょう。ちなみに80年台までは信号の「青」を「みどり」と呼んでいたのです。

 二人が同じものを信じていた時期というのは、歌詞中で青という色に例えられています。
 最後に二人が注文するべきだったのは仲良し時代の象徴である「青」をあしらったスイーツであるべきです。

まとめ

 『第三者』は世間的な評価は高くない曲なのですが、さだまさしらしい歌詞が堪能できる佳曲です。

 じっくり聴く価値のある曲ですので、ぜひ聴いてみて下さい。

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